2006年04月02日

NHKスペシャル「ドキュメント北朝鮮」

 NHKスペシャルの「ドキュメント北朝鮮」を見た。第一回の今日は「個人崇拝への道」として、金日成が政権を掌握し、独裁体制を築くまでが特集されていた。

 驚いたことに、当時の関係者自体がインタヴューを受けて登場している。指導者「金日成」を作り上げた人たちや、当時そこに実際にいた人々の証言は非常に興味深かった。全体としては目新しいことは多くなかったが、それをこうした証言やソ連の内部報告書などを使って裏付けており、非常に資料的価値の高い番組となっていた。まさにNHKにしかできない力作である。

 しかし、疑問点も残る。軍人や外交官だった人々が、職務を通じて知りえた事柄に関して、50年過ぎたとはいえ外国の放送局のインタビューにそう簡単に応じるものだろうか。また、何度も登場したソ連の内部文書の出所はどこなのか。こうした点を考えると、ロシア政府の意思として取材に協力した可能性が浮かび上がる。そうしてみると、北朝鮮はソ連が放棄した個人崇拝という誤った道を進んだ国として描かれており、ソ連に批判的な部分はない。これらは自いつであるとはいえ、ロシアに配慮した部分もあったのではないだろうか。

 さて、ロシア政府が北朝鮮を批判する内容の番組の制作に協力したとして、その意図を想像することはそれほど難しくない。要するに、今の北朝鮮の国家体制を崩壊させるための布石の一つということだ。ロシアの立場としては、北朝鮮は瀬戸際外交を用いてやっかいごとを持ち込む国であり、特にここ数年六カ国協議を通じてそれを再認識した、ということだろうか。ソビエト連邦は崩壊し、現在のロシアはアメリカと正面から事を構えることを望んでいない。今は国力と威信を取り戻すことが先決であり、アメリカに対してリスクを抱えたくないというのはあるだろう。

 現在、北朝鮮が存続しているのは、その崩壊を望む国が一つもないからである。第一に、崩壊した場合にかかるコストの問題がある。韓国は同義的にも国策的にも北朝鮮が崩壊した場合、それを支える必要があるが、韓国にそこまでの余力はないだろう。日本も、自国主導で北朝鮮の復興をするのは考えたくない。
 中国としては、やや事情が異なる。共産主義独裁体制を維持している中国は、アメリカの潜在敵国であり続けている。近い将来にはなくとも、アメリカが軍事的オプションを検討する可能性はあるのである。そうでなくとも、台湾をめぐって直接衝突することは十分ありうる。その際、中国と直接国境を接している国にアメリカが駐留しているのでは困るだろう。北朝鮮が崩壊した場合に多数の難民が押し寄せることもあり、中国はもっとも北朝鮮の崩壊と韓国との併合を恐れている国だろう。
 ロシアとしては、アメリカ軍が朝鮮半島全域に駐留することに対してそれほど神経質ではない。対テロ戦争を通じ、中央アジア諸国へアメリカ軍が駐留するのも容認してきた。どちらにせよNATOとも向き合っているわけで、アメリカに軍事オプションをとられた時点である意味負けである。現時点では核武装による相互確証破壊を担保できていることもあり、北朝鮮地域いアメリカ軍が駐留してもそれほど大きな影響はないだろう。そもそも、極東ロシアの価値は相対的には小さいのである。要するに、北朝鮮が崩壊してもそれほど痛くはない。極東地域で大規模な紛争が起こるリスクを考えれば、北朝鮮を崩壊させることを考えてもおかしくはない。

 NHKは、制作した番組を他国へも提供している。この番組も、各国語へ翻訳されて世界中で放送されるだろう。メディアを使った外交戦であり、日本政府とも打ち合わせの上であろうし、何らかの形の援助を受けた可能性もある。ロシア政府の影響があった場合は当然日本の外務省が動いているだろう。NHK廃止論者は、「国営放送」の意味をもう少し良く考えてほしいものだ。